第 2 章 抗炎症と抗酸化
「抗炎症と抗酸化とフリーラディカルについて」
●第2章 第4節
・フリーラディカル
人間の体は炭素、酸素、水素、窒素、カルシウム等の元素の組み合わせによってできています。
これら元素は中心に原子核があり、その周辺に霧状に電子が広がっているのですが、ここでは分かりやすいように原子核の周りに電子の輪があるところを想像してください。
そして、それぞれ分子は電子をいくつ持っていれば化学的に安定するというのが決まっています。
スイヘリーベボクノフネと聞いたことがあるのではないでしょうか。
この場合、一番目に来るスイは水素のことですが、つまり水素は原子核の周りに電子が一つあると化学的に安定するのです。
先ほどから化学的に安定するという言い方をしているのは実際には体内では安定した物質はあまり存在せず、電子を受け取ったり(還元反応)、電子を渡したり(酸化反応)という現象が繰り広げられているのです。
さて、ようやく本題に入りますが原子核を周回する電子の数に不足が生じ不安定になった物質のことで、フリーラディカルは安定を得るために他の(たいていは隣の)分子を攻撃し、電子を強奪する。
そして、電子を奪われた不安定な分子はまた他の分子を攻撃し・・・という酸化反応の連鎖反応が起きてしまいます。
そしてフリーラディカルの作用で最も恐ろしいのが DNA の酸化損傷です。
しかし、前回の記事で述べたように、人体は進化の過程の中でフリーラディカルを無害化する酵素を身につけてきました。
それでもフリーラディカルを処理しきれないのは以下のような精神的、身体的ストレスの所為です。
・不適切な飲食習慣
・大気汚染
・過度に紫外線を浴びる
・不健康な石鹸、シャンプー、染髪料、化粧品の使用
・農薬
・水銀汚染
・身体的、精神的ストレス
・大量な放射線
・タバコ
・過度なアルコール摂取
・薬
身体的ストレスに関して言えば、持久系競技者はとくに酸素を用いて多くのエネルギーを生み出すので、フリーラディカルを生成しやすくなっています(適度な運動は別です)。
では我々には為す術がないのでしょうか。いいえ、そんなことはありません。
●第2章 第5節
・抗酸化
抗酸化物質は、現在存在するフリーラディカルを中和するとともに更なるフリーラディカルからの損傷を防いでくれます。代表的な抗酸化物質は以下のものです。
抗酸化ビタミンとその仲間:ビタミン A、C、E、コエンザイム Q10
抗酸化フィトケミカル
・カロチノイド:ニンジン、トマト、キャベツ、マンゴー、パプリカ、ホウレンソウ
その他の抗酸化分子:尿酸、ビリルビン
そして、体内に元々備わっている抗酸化酵素(スーパーオキシドディスムターゼ、カタラーゼ、グルタチオンペロシキターゼ)はマンガン、銅、セレン、亜鉛といったミネラルと共に最適に働きます。
特にセレンは重要で土壌に含まれるセレンの含有率が高い地域ではガンの発症率が有意に低かったという報告もあります。
セレンの含有率が高い食品は魚、鶏肉、ブラジルナッツ、にんにく、全粒粉製品です。
ORAC(Oxidative Radical Absorbance Capacity)
フリーラディカルの除去能力の指標となる ORAC というものがありますが、ORAC 値の高い食品は以下のようになっています。
100 グラム当たりの ORAC
<<果物>>
クコの実 10000 から 30000
アサイベリー 5500 以上
ザクロ 5000 以上
レーズン 2800
ブルーベリー 2400
イチゴ 1550
オレンジ 750
チェリー 680
<<野菜>>
キャベツ 1700
ニンニク 1600
ブロッコリー 900
レッドビート 900
玉ねぎ 450
とうもろこし 400
(出典:『Warum Papaya kühlt und Zucker heiß macht』
Michaela Döll 著
上記以外のもので言えば、ブラックチョコレート、ダークココア、すもも、西洋梨、ナッツ、リンゴ、朝鮮アザミ、赤ワインも高い抗酸化物質を含みます。
抗酸化物質には故障の治癒の促進・予防以外にもアンチエイジングの効果もあります。
ここからは、どのような抗炎症方法があるのか具体的に皆さんに紹介していきたいと思います。
●第2章 第6節
・抗炎症 RICE 療法
RICE 療法または RICE 処置と呼ばれるこの手法は、Rest=安静、Ice=冷やす、Compression=圧迫、Elavation=挙上の4つの頭文字を意味します。
急性の炎症が起きた時にはまずはこの4つによって患部に急激に血液が集まるのを抑えてください。炎症は治癒過程の一つと言っても、痛み等の負の側面も大きいので急激な炎症は抑える必要があります。
●第2章 第7節
・抗炎症 RICE 療法
非ステロイド系の抗炎症剤には、ロキソプロフェン(商品名ロキソニン)、イブプロフェン(商品名イブクイック等)、ジクロフェナク、アセトアミノフェン、アセチルサリチル酸(アスピリン)等が有名です。
これら非ステロイド系抗炎症剤は即効性があり、炎症を素早く抑えてくれるのですが、副作用も多くあります。
最も起こりやすいのは消化器系への副作用で胃や腸の粘膜を傷つけ出血の原因となります。
便が黒くなることがありますがこれは血が混じっているからです。
2004年のアテネオリンピックでは金メダル候補筆頭の英国淑女ポーラ・ラドクリフ選手が途中棄権したのを覚えておられる方も多いかと思います。
彼女は故障を抱えたままスタート地点に立ちましたが、棄権した直接の原因は抗炎症剤の副作用による腹痛でした。
短期の服用の場合、副作用はあまり見られませんが、2 週間以上の連続した服用、もしくは1か月に10日以上の長期の服用を続けると副作用も起こりやすくなります。
消化器系以外への副作用に関しては以下のようなものがあります。
血液性状の変化、抜け毛、じんましん、呼吸循環器系のショック、肝臓の損傷、疲労感。
●第2章 第8節
・抗炎症 ステロイド
ステロイドは非ステロイド系抗炎症剤よりも更に強力に作用しますが、副作用もまたより大きいと言われています。
これら非ステロイド系抗炎症剤は即効性があり、炎症を素早く抑えてくれるのですが、副作用も多くあります。
どの部位にどの種類のステロイドをどれだけ投与するかで変わりますが、強力な抗炎症作用を持つ一方で、筋肉、靱帯、腱などを傷つける可能性もあります。
一般的に、筋肉は腱や靱帯と比べて副作用の影響を受けにくいとされています。
また、この副作用に関しては反論もあり「ステロイド注射の後の靱帯や腱の損傷及び症状の再発はステロイド注射の影響ではなく、痛みが消えた結果、急に酷使するからである」とする意見もあります。
私、池上はどちらかが正しいというよりは、どちらのケースもあると思いますし、また一度痛める箇所は構造的な欠陥を抱えていることが多くステロイド注射に関係なく、そもそも再発の可能性が他の箇所に比べて高いと考えています。
ステロイドの副作用は他にも様々なものがあり、以下のようなものがあります。
目の疾病、鬱、糖尿病、免疫低下、体重の増加、湿疹、筋肉の萎縮、骨粗鬆症、不眠、靱帯の弾力性の低下。
また、長期の使用で軟骨が減少するので関節炎の治療に使う際には治すために使ったステロイドで軟骨が損傷するというパラドックスに陥ってしまいます。
今回はここまでです。
次回は『抗炎症』と『抗酸化』の最終回となります。
掲載内容について質問・疑問がございましたら、こちらの問い合わせアドレスまでメールをお送りください。
適宜ご返答してまいります。
参考文献
『ミトコンドリア革命』宇野克明著 東邦出版
『Warum Papaya kühlt und Zucker heiß macht』
Prof. Dr. Michaela Döll 著
『Die Entuzündung die heimliche Killer』
Prof. Dr. Michaela Döll 著
『MSM Natürliche Hilfe bei Entzündungen und Schmerzen』
Prof. Dr. Michaela Döll 著
参考記事
Dieter Hogen と Janett Walter