第 2 章 抗炎症と抗酸化
「抗炎症と抗酸化とフリーラディカルについて」
●第2章 第1節
・炎症とは何か
競技者にとって最大の敵ともいえる故障。
市民ランナーの人達にとっても足が痛くて走れないという状態ではなかなか人生を楽しめないのではないでしょうか。
様々な故障がありますが、痛みの原因となっているのは炎症です。
また逆に炎症が故障を引き起こしていると言えるケースも多々あります。
疲労骨折でさえも、折れている骨が痛いわけではなく、折れている骨の周囲の筋肉等の組織に炎症が起きて痛みを感じます。
あまり薦められることではありませんが、疲労骨折している選手がマッサージや鍼治療によって損傷している骨の周囲の筋肉をほぐしながら練習を続けて骨が固まることがあるのはこの為です。
さて、今回は炎症のメカニズムについて説明していきたいと思います。
●第2節
・炎症のメカニズム
もし走っているときに肉離れを起こすとします。筋肉内での損傷個所に内出血を止めるための血小板や白血球、特にリンパ球、好中球、単球等の免疫細胞が多く送られます。
そして、その免疫細胞が傷ついた細胞を掃除し、その残骸を流さなければいけません。
そのため患部にはたくさんの血液が流れ込みます。血管や毛細血管が拡張され細胞内部には通常より多くの体液が流れ込み膨張します。
そして、神経の末端部を刺激し、痛みを感じるのが炎症であり、この時痛みの他に、腫れ、発赤、発熱を伴います。
これが典型的な炎症です。
以上に述べたように炎症は治癒の必要な過程の一つです。免疫細胞がきれいに掃除してくれたあとで、再毛細血管化、新しいコラーゲンの成長、正常な細胞の生まれ変わりが始まります。
●第3節
・低度で慢性的な炎症
急性的で発熱、発赤、腫れを伴うような炎症が治癒過程の一つであるのに対し、発熱、発赤、腫れを伴わないような低度で慢性的となる炎症もあります。
これは治癒過程には必要ではないだけではなく、この低度の炎症の所為で神経の末端部が圧迫され痛みを感じ脳はより多くの免疫細胞を送るように指示を指し、その結果細胞や血管の膨張が起き、神経の末端部が圧迫され痛みを感じるという負の連鎖に陥ってしまいます。
言ってみれば、花粉をウイルスと勘違いして、くしゃみや鼻詰まりをもたらすようなアレルギー反応と同様で、本来ない方が良いものです。
実はこの低度で慢性的な炎症はガンやアルツハイマー、心筋梗塞、脳卒中、動脈硬化の原因ともなるもので非常に厄介なものです。
そして実感としては、長距離選手の故障は肉離れや捻挫のような急性的なものよりも、この程度で慢性的な炎症が大部分を占めるのではないでしょうか?
「走れるけどこの3か月間ずっと膝が痛む」、「足底筋膜炎がもう一年間も治らなくて」、「体が温まると痛くないけど、走り始めと走り終わった後が痛いんだよなぁ」
こんな人あなたのまわりにいませんか?
あるいはあなたがそうかもしれません。
皆さんはこんな疑問を持ったことがありませんか、「人間の細胞って2,3か月で全部入れ替わると言われてるのに、何で4か月とか半年とか故障してたり、走れるけど痛いっていう状態が続くんだろう?」
その理由は一言で言えば、細胞が正常に生まれ変わっていないからです。
細胞死には「アポトーシス」と「ネクローシス」という二つの種類のものがあります。
アポトーシスの方はプログラム死とも呼ばれており、もともと DNA によってプラグラミングされていて、古くなった細胞が自動的に死に新しい細胞へと生まれ変わるものです。
この時炎症は起こらず最後はリンパ球・食細胞が飲み込んで処理してくれます。
一方のネクローシスは傷ついた DNA によってもたらされる炎症を伴う細胞死です。
アポトーシスは徐々にアポトーシス小体という小さな細胞に分かれていき、最後はリンパ球や食細胞に食べられるのに対して、ネクローシスは自爆のように小さな破片へと破裂していきます。
そして、その炎症が更に炎症を引き起こすという連鎖反応が起こります。
アポトーシスを引き起こすカギを握っているのは、ミトコンドリア DNA だと言われています。
そう中学、高校の生物で習った呼吸によって(つまり酸素を用いて)エネルギーを生み出す細胞の中に存在するあの小さな器官のことです。
このミトコンドリア DNA が正常に働いていれば、アポトーシスという正常な細胞死を引き起こすことが出来るのですが、DNA を傷つけネクローシスを引き起こす厄介者の存在があるのです。
それがフリーラディカルです。
そして、故障に付随する炎症と戦っている人は、同様にそれによって余分に生じるフリーラディカルと戦わなければならないという連鎖に陥ります。
他にもフリーラディカルは細胞の脂質やたんぱく質も傷つけ加齢を促進させる原因となったり、関節炎や動脈硬化、ガン、脳卒中、心筋梗塞の原因となります。
フリーラディカルはウイルスやバクテリア等の細菌を殺すために白血球によっても作られ、また呼吸のたびに作られるものでもあります。
しかしながら、人体は酸素をエネルギーにする進化の過程の中で、スーパーオキシドディスムターゼ、カタラーゼ、グルタチオンペロキシターゼのような抗酸化酵素によって無害なものに変えるという適応を遂げてきました。
でも・・・賢明な皆さんのご推察通り話はそう単純には行かないから低度で慢性的な炎症が続く訳ですよね。
今回はここまでとします。
次回も『抗炎症』と『抗酸化』の内容を引き続き、論じてまいります。
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適宜ご返答してまいります。
参考文献
『ミトコンドリア革命』宇野克明著 東邦出版
『Warum Papaya kühlt und Zucker heiß macht』
Prof. Dr. Michaela Döll 著
『Die Entuzündung die heimliche Killer』
Prof. Dr. Michaela Döll 著
『MSM Natürliche Hilfe bei Entzündungen und Schmerzen』
Prof. Dr. Michaela Döll 著
参考記事
Dieter Hogen と Janett Walter