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第1章 細胞とミトコンドリアとクエン酸回路

「全てのエネルギーは間隙に存在する」

●第1章 第2節

・健康とミトコンドリア、酸化ストレスの関係

ここまで、有気的エネルギー代謝について解説してきました。

 

生物は有気的代謝を手に入れたおかげで進化を遂げてきたのですが、実はもろ刃の剣でもあります。

 

酸素を用いてエネルギーを生み出すことで酸化ストレスと呼ばれるものが生じる原因となっています。

 

原子は、その周囲の電子の数によって安定するか安定していないかが決まるということは先述しましたが、体内には化学的に安定している原子のみが存在している訳ではありません。

 

実際には体内では安定した物質はあまり存在せず、電子を受け取ったり(還元反応)、電子を渡したり(酸化反応)という現象が繰り広げられているのです。

 

原子核を周回する電子の数に不足が生じ不安定になった物質は安定を得るために他の(たいていは隣の)分子を攻撃し、電子を強奪します。

 

そして電子を奪われた不安定な分子はまた他の分子を攻撃し・・・という酸化反応の連鎖反応が起きてしまいます。

 

この化学的に不安定になり、隣の分子を攻撃する性質を持った物質のことをフリーラディカルと呼びます。

 

そしてフリーラディカルの作用で最も恐ろしいのが DNA の酸化損傷です。

 

フリーラディカルはウイルスやバクテリア等の細菌を殺すために白血球によっても作られ、また呼吸のたびに作られるものでもあります。

 

しかしながら、人体は酸素をエネルギーにする進化の過程の中で、スーパーオキシドディスムターゼ、カタラーゼ、グルタチオンペロキシターゼのような抗酸化酵素によって無害なものに変えるという適応を遂げてきました。

 

それでもフリーラディカルを処理しきれないのは以下のような精神的、身体的ストレスの所為です。

 

・不適切な飲食習慣

 

・大気汚染

 

・過度に紫外線を浴びる

 

・不健康な石鹸、シャンプー、染髪料、化粧品の使用

 

・農薬

 

・水銀汚染

 

・身体的、精神的ストレス

 

・大量な放射線

 

・タバコ

 

・過度なアルコール摂取

 

・薬

 

身体的ストレスに関して言えば、持久系競技者はとくに酸素を用いて多くのエネルギーを生み出すので、フリーラディカルを生成しやすくなっています(適度な運動は別です)。

 

では酸化ストレス(フリーラディカルの発生)が何故問題になるのかということですが、一言で言えば遺伝子の転写ミスを引き起こすからです。

 

要するに、古い細胞が死んだあと正常な細胞に生まれ変わらないのです。

 

●第1章 第3節

・アポトーシスとネクローシス

細胞死にはアポトーシスとネクローシスという二つの種類のものがあります。

 

アポトーシスの方はプログラム死とも呼ばれており、もともと DNA によってプラグラミングされていて、古くなった細胞が自動的に死に新しい細胞へと生まれ変わるものです。

 

この時、炎症は起こらず最後はリンパ球・食細胞が飲み込んで処理してくれます。

 

一方のネクローシスは傷ついた DNA によってもたらされる炎症を伴う細胞死です。

 

アポトーシスは徐々にアポトーシス小体という小さな細胞に分かれていき最後はリンパ球や食細胞に食べられるのに対して、ネクローシスは自爆のように小さな破片へと破裂していきます。

 

そして、その炎症が更に炎症を引き起こすという連鎖反応が起こります。

 

アポトーシスを引き起こすカギを握っているのはミトコンドリア DNA だと言われています。

 

ミトコンドリア DNA が正常に働いていればアポトーシスという正常な細胞死を引き起こすことが出来るのですが、DNAを傷つけネクローシスを引き起こすのがフリーラディカルです。

 

他にもフリーラディカルは細胞の脂質やたんぱく質も傷つけ加齢を促進させる原因となったり、関節炎や動脈硬化、ガン、脳卒中、心筋梗塞の原因となります。

 

ミトコンドリア内のクエン酸回路における代謝経路について先述しましたが、もう一度おさらいしておくとミトコンドリア内膜の電子=水素イオンがミトコンドリア内膜の外側に汲み出された後、アデノシン三リン酸アーゼと呼ばれる回転する水車のようなところを通ってミトコンドリア内膜に戻ります。

 

この時にアデノシン二リン酸がアデノシン三リン酸に再合成されます。

 

しかしながら、このミトコンドリア内膜の外側にある水素イオンを内側に運び込めない状態が生じることがあります。

 

ストレスを受けたり、局所貧血を起こしているミトコンドリアの内部では一酸化窒素が発生し、この一酸化窒素が発生すると、呼吸酵素複合体IIIから受け取った水素イオンを呼吸酵素複合体IVに手渡す働きをするタンパク質であり、ミトコンドリア内膜に存在するシトクロム C が働かなくなります。

 

この結果、ミトコンドリア内膜で水素イオンが動かなくなるので、水素イオンはミトコンドリア内膜の内側で滞ってしまいます。

 

水素イオンをミトコンドリア内膜の外側に汲み出す呼吸酵素複合体は電子を受け取りたがり、また次の複合体に電子を渡したがる性質があります。

 

電子を次の複合体に受け渡すためにはシトクロム C が必要ですが、シトクロム C が働かないので電子を次の複合体に渡せなくなります。

 

そうすると、この電子を他の物質に渡す可能性が高くなりますが、この時、他の物質として最も考えられ得るのが酸素です。

 

このように酸素と水素が結びついて過酸化水素というフリーラディカルになり、フリーラディカルを発生させることになります。

 

こうしてミトコンドリア内部で大量のフリーラディカルが発生した結果、酸化損傷によって DNA に変異が生じると正常な細胞死であるアポトーシスが引き起こされなくなります。

 

正常な細胞死が引き起こされないとネクローシスという炎症を伴う細胞死が引き起こされます。

 

このようにして生じた、低度で慢性的な炎症が癌、アルツハイマー、II型糖尿病、心筋梗塞、脳梗塞、関節炎、老化、シミ、しわなどの原因となります。

 

ただ、原理としては物凄く単純でフリーラディカルは電子の数が少なく安定していない物質であるので電子を供給しさえすれば安定します。

 

さて、今回はミトコンドリアというものを基準に話を進めてきました。

 

あなたも長距離ランナーは見た目が若いと思ったことはありませんか?

トップランナーとまでいかなくても市民ランナーの方でも走っていない方よりも見た目の若い方が多いです。

 

酸化ストレスだけを考えれば、ハードなトレーニングをしている人の方が、老化が早く進むはずです。

 

ですが、持久系スポーツによってミトコンドリアが活性化するので、プラスマイナスで見るとプラスの方が大きくなります。

 

このため、ミトコンドリアの数が多く、機能も高い持久系アスリートは見た目が若い人が多いのです。

 

今回はミトコンドリアに焦点を絞って書いてきましたが、次回からは『抗炎症』と『抗酸化』に絞って話を進めていきましょう。

 

掲載内容について質問・疑問がございましたら、こちらの問い合わせアドレスまでメールをお送りください。

 

適宜ご返答してまいります。

 

 

参考文献

『ミトコンドリア革命』宇野克明著 東邦出版

 

『中長距離ランナーの科学的トレーニング』

デヴィッド・マーティン、ピーター・コー著

征矢英昭、尾縣貢監訳 大修館書店

 

『Warum Papaya kühlt und Zucker heiß macht』

Prof. Dr. Michaela Döll 著

 

『Die Entuzündung die heimliche Killer』

Prof. Dr. Michaela Döll 著

 

『MSM Natürliche Hilfe bei Entzündungen und Schmerzen』

Prof. Dr. Michaela Döll 著

 

参考記事

『Ernährung: Freie Radikale』

Dieter Hogen と Janett Walter

 

『抗酸化と抗炎症とフリーラディカルについて』

池上秀志

 

『LLLT (Low Level Laser Therapy)』

池上秀志

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