私の考える『Athlete Physical Intelligence』をご理解いただき、今後のアスリート活動にお役立て下さい。
●体調管理とは何か?
ウェルビーイングとホメオスタシスの概念について。
あなたは体調管理と聞かれてどんなイメージを持ちますか?
少し考えてみてください。どうでしょうか?
あなたの中でいくつか答えが思い浮かんだでしょうか?
私の経験では、8割くらいの人が次のように答えます。
・体調を崩さないようにすること
・怪我をしないこと
・夜更かし、暴飲、暴食などの不摂生をしないこと
これらも全く間違いではありません。
ですが、私にとっては体調管理とは、ただ単に風邪をひかない、二日酔いにならない、怪我をしていない以上のものです。
考えてみてください。
あなたも風邪はひいていない、熱もない、でも頭がボーっとして集中できない、そんな日がありませんか?
あるいは逆に、頭は冴えているのだけど、走り出したら、いつもと違う身体がだるいという日はありませんか?
ご飯は美味しく食べられ、お酒は美味しく飲めるでしょうか?
これらの要素で全て満足できていないのであれば、体調管理がなっていないと言われても仕方ありません。
先述の例からもお分かりいただけるように、体調管理はスポーツ選手だけがやるものではありません。体調管理は全ての人が仕事もプライベートも充実させるために必要不可欠なものです。また禁欲的なものとも違います。スポーツを思う存分楽しめて、仕事でも能率を上げ、ご飯は美味しく食べられ、お酒も美味しく飲めて、それでいながら引き締まった体を維持し、速く長く走り、遠くに跳ぶ、これが理想の体調管理です。
どうでしょうか?
あなたの体調管理のイメージが変わったでしょうか?
体調管理の秘訣は禁欲ではありません。禁欲ではなく、正しい知識を身につけることです。
正しい知識がなければ、理想の体調を作ることはできません。
確かに、真言宗や修験道者など1000年以上続くような伝統を持っている人たちの修行の方法は非常に理にかなっており、合理的であります。ただ、やはり1000年以上も前の時点でのベストの方法であり、アップデートの余地はたくさんありますし、後述する「LLLT」のような器械もまだありませんでした。
そして何よりもせっかくの体調を手に入れても人里離れた山の中で暮らしていてはもったいないではないですか。
せっかく今までよりも、仕事や学習の能率が上がり、体は引き締まり、賢く美味しく食べるすべを身につけ、思いやりや愛を学び、仕事でも私生活でも満足できるようになるのですから。
このように単に心身の病気がないという状態にとどまらず、全てにおいて満たされた状態のことを『ウェルビーイング』と言います。
ウェルビーイングというのは良く在るという意味です。
自分の存在状態そのものが良い状態にあることをウェルビーイングと言います。
この15回程度の『Athlete Physical Intelligence』掲載で私たちが目指すのも、このウェルビーイングになります。
では、ウェルビーイングというものをもう少し掘り下げて考えていくとどのようなものになるでしょうか?
ウェルビーイングというのは、身体レベルでの『ホメオスタシス機能』の最適化です。
もう一度書きます。ウェルビーイングというのはホメオスタシス機能の最適化です。
では、ホメオスタシス機能はとはどのようなものでしょうか?
もう少し掘り下げてみていきましょう。
●『ホメオスタシス機能』とは何か?
ホメオスタシスというのは人間の体が常に一定の機能を維持しようとする機能です。
例えば、私たちの体温は常に一定であり、脳に送られる酸素や血液の量も常に一定です。
そして各筋肉に必要な量のグリコーゲンや脂肪酸が常に供給されています。私たちの体は基本的にはこのホメオスタシス機能により、過不足なく全ての機能が一定に保たれるようになっています。例えば、私たちの中核体温はおよそ36度で一定に保たれていますし、血糖値が下がってくるとお腹が減ります。そしてご飯をたくさん食べるとお腹いっぱいになり、食欲がなくなります。
このようにして体の中のエネルギー量を一定に保っています。また体の賢いところはずっと野菜を食べないでいると、野菜が食べたくなりますし、鉄が不足していると鉄分を豊富に含む料理が美味しく感じるようになります。昔の人は体のホメオスタシス機能から受けるフィードバックからいろいろな知恵を生み出してきました。
例えば、今でもお寺ではお客様が来ると、緑茶に黒砂糖と梅干しを添えて出すことがあります。これは緑茶の抗酸化作用に、黒砂糖の糖質とビタミンB群、そして梅干しのクエン酸が長旅を癒してくれることを経験的に知っていたからです。
同様に、睡眠不足が続くと眠たくなるし、飛行機や車などの長旅でずっと体を動かしていないと動かしたくなります。
ところがよく観察してみると、ホメオスタシス機能が正常に働いていない人がいることに気づきます。例えば、同じような怪我をしても怪我の治りが遅い人と早い人がいます。
風邪をひきやすい人とひきにくい人がいます。前日の疲れからの回復が早い人と遅い人がいます。これらは全てホメオスタシス機能がよく働いている人とそうではない人の違いです。
●アンチエイジングやウェルビーイングとホメオスタシス機能
ヒトは一般的に加齢とともにホメオスタシス機能が働かなくなります。
ですが、皆さんご存知のように同じ20代でも若々しい人とそうではない人がいます。
10代くらいでは、ほぼ差はないのですが、20代、30代、40代になって来ると、外見の若さや機能にはっきりとしたさが出てきます。例えば、スポーツ選手は比較的が意見の若い人が多くないでしょうか?特に長距離ランナーのような持久系競技者は見た目が若くないでしょうか?時には幼く見える人も多いくらいです。
これにはいくつかの理由があります。
先ず、全ての競技スポーツはある程度の出力が要求されます。マラソンランナーのようなゆっくり走っているように見える競技でもレースペースは50m9秒前後、トレーニングではスプリントやウエイトトレーニングをします。そして野球やサッカーのような競技ではいうまでもなく、瞬発力が要求されます。このように強度の高い運動をすると、テストステロンや成長ホルモンといった体を若く保つホルモンが分泌されます。
また競技を問わず、質が高く十分な量の睡眠をしっかりと摂り、食生活に気をつけ、過度な飲酒は控える人が多いのも理由の一つです。そして高い集中力を発揮するためにメンタルトレーニングや瞑想に取り組む選手が多いこともプラスに働いているでしょう。
ただ私はあなたにストイックに生活をしなさいとは絶対に言いません。私が言いたいのは適切な知識を身につけ、それを実践すれば、ホメオスタシス機能を最大限に高め、いつまでも若々しく、そして同じ20代でも他の人よりも体の回復は早く、高い集中状態を長時間保つことができるということです。
では逆にホメオスタシス機能が正常に働かなくなるとどうなるでしょうか?
今まで仕事が順調にできていたのに嘘のように集中できなくなったり、痩せて引き締まっていた人が太りはじめたり、症状が悪化するとアルツハイマーや二型糖尿病、ガンを発症するおそれもあります。
どちらを選ぶかはただ単純にあなた自身の選択です。
正しい知識を身につけ、そしてそれを実践するかどうか、それだけのことです。
では、ホメオスタシス機能の最適化にはどのような要素が必要になるでしょうか?
キーワードは「ミトコンドリア」「抗炎症」「抗酸化」「血糖値コントロール」そして「睡眠」です。
それでは、これらの要素を次回以降の『Athlete Physical Intelligence』でステップバイステップで解説していきます。